小部屋の住人 =Ю(ユー)= |
『液体と成仏』 メニエル氏病なのだと、女は 古い朱色の着物を身にまとい、汽車の中 空席がそこらじゅうに あるのにかかわらず わたしの隣にわざわざ座って、そう言った 「明治の人間ですから」 と女は艶やかに笑うと 袂(たもと)から出した蝋燭の火を喰っている これで10年程 生きながらえるのだという 「空白の卵を孕みました」 だからわたしを草原へ連れて行くのだ、と女は真剣に言う 植物という植物を掘削する その傷口から垂れる夥しい柔らかな蛙たちよ わたしはそれらを両手で掬う 小麦畑を駆け抜ける かつてあった光の残像 「一匹のサンショウウオを殺(あや)めた聖家族に伽藍が宿るのです」 伽藍とはわたしの頭蓋であって それは先程 木に吊るされたのだと 女は形而下の地下室へと入っていく そこでは信心深い韃靼人の男たちが一人ずつ ゲロを吐きにくる それは気怠(けだる)い 「わたしはここで孕んだのですよ」 女が笑う そして女は臨月を迎え、植物人間を百ほど産んでいく わたしはそれを互い違いに古いミシン台の上へ並べていく 「植物人間の世界は気高いのです」 伸びたり縮んだりしていたかと思うと、女は液体になって流れてしまった 傾いていく珈琲の中の胡乱な人々の目 ハンス・ベルメールの人形のような 植物人間たちに 肥大した人々の自己愛を救ってもらいたいとわたしは思う 精神の引き出しに閉まったままだった 黴(かび)た鈍重な中国製トカレフをふと思い出し わたしはわたしの伽藍を撃ちぬいた それはある日の午後のお話 |
ええと、これは実際にわたしが体験した話ですね ・・・嘘です はい。 |
詩はfactory or
train(工場詩または列車詩?)、metaphisical(形而上詩)、fancy(おかしな詩)、 others(その他)に分かれています 形而上詩はわたしが勝手に作った造語ですが、ワケがわからない詩とお考えください そんな感じです(? |
【冬のコラボカーニバル】 吊るされた男 |