<残照> 五月の終わり、六月のはじまり、雨、雨上がり、雨上がりの、街。 咽る光、光、に、蜂鳥、蜂鳥がゆらぐ、ゆらぐ、かすかな影、その残響、翳る、光、黒揚羽。 揚羽蝶、焼く、焼ける、焦げる、黒く、霞む、目、の、瞳孔、を、黒く、焼く、砕けた光。 小刻みに震え、る、左瞼、小刻みに震え、光に霞む。 厚く濡れる、上睫毛、濡れて、眼球に、貼り付く、覆う、幕。 揚羽の夏、飛蚊の夏、夏、光に咽る、光、に消える、霞む、揚羽。 残照、残る蚊、目の中に、残る蚊、残る黒揚羽、夏の残照、白く光る。 黒蟻は貯めつつ、反芻する、冬を待ち、避けられぬ冬を待ち、忘れぬほどに、反芻する。
拙作にしては語彙に衒いが少ないのが美点でしょうか。 我ながら気に入っている部類の作品です。 強い光の中で風景が点描と化し、瞼を閉じてもそれが眼の裡に焼きついている。 そして、瞼の影の中で光が再び呼び起こされるように、 一つの季節が過ぎ去った後の、別の季節においても同じ光が再生される。 それは風景の再演ということである。 初夏の強い光に眩み、盲目となったとしても、記憶の中に季節は再演される。